12月25日、言うまでもなく時はクリスマス。

世間は無駄にはしゃいでいて、通り過ぎる店は
どこも柊やもみのきのモチーフで飾り付けているし
行きかう奴の中にはいい大人の癖して2人で
ベタベタひっつきながら歩いてやがるのがいる。

そういう俺は冬休み中、だが氷帝学園の中3ともなると
休みだからといってうかうかしてはいられない。
今日だって学校での冬期特別講習に行ってきたんだが、
家に帰ってきてみればうちの義妹がまた訳のわからないことをしていた。

義妹と俺様 ―ジンジャーマンクッキー―

俺が家に帰ってきた時、は自分の部屋にいなかった。
メイドに聞いてみたら、

様なら厨房におられます。」

なんて返事を聞かされる。
何だって跡部家の娘が(養女だが)厨房にいるんだよ!
意味がわからねぇと思いつつ、部屋に行って着替えにかかる。
あの馬鹿、今度は何をしでかすつもりだ。
養女の身分で肩身が狭いとか何とかぼやいてる癖に
何回かに1回、必ずとんだ行動にでやがる阿呆を一体どうやってしつけりゃいい。

とりあえずふざけた真似をしていているようならケツの1発や2発叩いてやる。

厨房に行ってみれば、はたしての姿があった。
しかもエプロンなんぞをしてやがる辺り、どうも何か料理をしているらしい。
確か前に『料理はようせん』とか何とか言ってた覚えがあるが何の気紛れだ。
気紛れでんなことやりだすこいつもこいつなら、コックもコックだ。
何だってうかうかとを厨房に入れたんだ。

やがて俺がやってきたのに気がついたのか、がこっちを振り返った。

「あ、にーさん、おかえりー。」
「おかえり、じゃねぇよ、この馬鹿。てめぇ何やってんだ。」
「何って、」

は当たり前のように答えた。

「ジンジャーマンクッキー作ってるに決まってるやん。」

見れば義妹の手にはジンジャーマンの抜き型が握られていた。


「何だってこんなことになってんだ。」

俺は料理長に向かって呟いた。
料理長が苦笑しながら語った話ではこうだ。

何でも俺が学校に出かけた後にがエプロン姿でやってきて、
ちょっと作りたいものがあるから厨房の隅を貸してほしいと言ってきたらしい。
しかもわざわざ手には材料の入ってるらしいスーパーの袋を握っていたそうだ。
さては前の日に何か本を読んでて、それに出てきたジンジャークッキーにでも
興味を示したんだろう。
向上心はないくせに食い意地だけはいっぱしだからな。

問題はこの忙しい時にってトコだが。
(我が家でも一応クリスマスは祝うしきたりになってるから、
この日の前後はいつも忙しい。厨房だって例外じゃない。)

「それはいいが、作業に差し支えはないんだろうな。」

尋ねると料理長は今度は苦笑じゃなくて普通に笑って、大丈夫だ、と答えた。

「それに、ほら。」

料理長はに目を向けた。

「楽しそうにしておられますから。」

は丁度抜き型でクッキーの生地をジンジャーマン型に抜いている所で、
確かに頭の上に音符でもつけたら良さそうな様子だった。


そうやって馬鹿義妹が焼きあげたジンジャーマンクッキーは
お茶の時間に俺の前に出された。
焼き加減はまぁ悪くない。焦げてもねぇし、生焼けでもなさそうだ。
つーか、こいつどうかしてんじゃねぇのか。
全部のクッキーをいちいちアイシングで違う顔にしやがって、
馬鹿の癖によくまぁこんな面倒くさい芸当が出来るもんだ。

「な、な、どない?」
「下手くそ。」

俺は一つ齧ってみて言った。
はあからさまにがっかりする。

「まぁとても一流とは言えねぇが、てめぇにしちゃ上出来か。」

は何も言わなかったが、さっきがっかりした顔が
今度はあっというまににやけている。単純な奴だ。
あまりに嬉しそうにしやがるのでついもう数枚くらい口にした。

「良かったらもっと食べて。全部にーさんのやから。」
「いらねぇよ。」

俺は言って茶をすすった。

「晩飯終わったら、な。」
「うん。」

は言って何故か皿からジンジャーマンをいくつか選って紙に包んだ。


その日の晩、クリスマスの晩餐の席でふと食堂に飾っているクリスマスツリーを見たら、
が皿から選ったジンジャーマンが誇らしげに飾られていた。

義妹と俺様 ―ジンジャーマンクッキー― 終わり


作者の後書き(戯れ言とも言う)

一足早くクリスマスネタでやってみました。
パッと見クリスマス話とはわからないくらい地味ですが
聖なる日のささやかな喜びを表現したいなぁ、と思いまして。
だからって何でジンジャーマンクッキーなのかと言えば、
職場でも『食いしん坊万歳』の名をほしいままにしている私は
クリスマスとなるとジンジャーマンクッキーを連想する特異体質だからです。
自分ではまったく作ったことはありませんが、
あの愛らしい形には何か惹かれるものを感じます。
これ書くのに一応ネットで作り方を調べたんですが、
ジンジャーマンですぐに検索にひっかかってくれた某食品会社のサイトには感謝。

ちなみに氷帝の冬季の講習は勿論私の捏造です。
ファンブックには特に記述がありませんでしたが
進学校だからそれくらいあるかなぁ、と思って。

2006/12/23

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